脈診でわかる5つのこと
韓流ドラマの歴史ものは鍼や灸をしているシーンがよく出てくるので「ホ・ジュン」や「馬医」が好きで再放送をやる度に必ず観ます。ドラマの中で当時の医官たちが王族相手に脈を診ながら、重篤な病気の名前を告げているシーンや「ご懐妊です。しかも男子を授かりました。おめでとうございます。」と言っているシーンを結構な数で目にします。
脈診を現代の血液検査やレントゲンやMRIなどの画像診断と同等程度、とても精度の高い検査のような扱いで登場させています。その影響もあってか脈診は身体の状況が何でも分かるものと刷り込まれた方も多いのではないでしょうか。
初診時の患者様を拝見するときは特に念入りに脈診をする必要があります。患者様の口から話されることは決まって症状についてのことなので、その他にも知っておかないといけない身体のリアルな状況を確認する必要があるからです。長くても2～3分の間の脈診をするだけで予診表に記入できないような、以下のことを脈診はわかります。
- 病の根本や原因がわかります。
- 「不問診」の通り問診をしないでも、治療に使用する経穴がわかります。
- 主訴ではない身体の状態や既往症がわかります。
- 胎児の性別がわかります。
- 妊娠の有無がわかります。
これらの詳細を説明します。
脈診の一番のメリットは一番重要な病気や症状の根本とされている「精気の虚損」を見つけられることです。
精気とは生きていく上で代謝される際に使われる力のことです。もっと簡単に言うと生きる力のことで、僕らが生きている以上、精気は少なくなったり、ひどい場合は悪くなります。それを精気の虚損と表現していて、その精気が弱く少なくなっている経脈を脈診では見つけることができます。
精気の虚損は問診では見つけことができないというか無理なんですね。だって「精気の虚損はどの経脈にありますか」と患者様に尋ねても答えられる人は居ないと思います。見つけた精気の虚損をアプローチする鍼灸治療法は経絡治療だけになります。そして精気の虚損がどこにあるか探せる診察法は脈診だけです。
多くの鍼灸治療はこの症状にこのツボみたいな治療で、多くの鍼灸師がその治療法をしているのが大半だと思います。でも症状を伝えることのできない人や、症状の原因すら分からない患者様に不向きだと思います。
脈診は「不問診」と言われ、経絡治療は問診要らずで鍼灸治療ができます。それは脈診からその患者様に使う経穴がオートマチック的に選択され、治療を進めることができるからです。
社員旅行に行った時のことです。夕食後、温泉に行ったきり女性スタッフが帰ってきませんでした。探しているとトイレで吐いたままグッタリしている状態で宿の方が見つけてくれました。湯当たりしているのか、食べ物に当たったのか検討がつかない状況で便器に寄りかかっている状態でした。たまたま鍼を持ってきていたので、ひと目を気にしないで脈を診て、吐き止の処置をしたら少し動けるようになったので、用意してもらった車椅子で部屋に戻りました。気持ち悪く、まだ喋れない様子でした。いつ吐かれてもいいように回復体位という横向きにした状態で、脈診をしながら鍼治療をしました。だいぶ楽になってようでしゃべるくらい元気が出たようだったので、そのまま休んでもらいました。翌日には昨晩のことが無かったように元気になっていました。女性スタッフも具合が悪くなって初めて鍼灸治療を受けたので、鍼灸治療の効果を実感できたようです。
初診時には患者様は主訴と関係なさそうなことを話さないこともあります。脈診はこのような患者様が話さない身体の情報を教えてくれますので本当に助かった経験が沢山あります。
悪阻（つわり）を訴えて来院した妊娠12週の妊婦さんがいました。脈を診ると悪阻（つわり）どころではなく、今にも流産しそうな脈をしているので、慌てて、流産止めの処置をしましたら脈が落ち着いたので安心しました。その後確認したら、流産や死産を何回も経験したことがあるそうです。
24歳女性は慢性疲労が主訴でしたが、大腸経脈に部分に炎症がくすぶっている形の脈があったので、右の副鼻腔に炎症のような蓄膿症はないの？と訊いたらズバリ的中しました。
腰痛ではない別の主訴の26歳女性には膀胱経脈の中央に古傷のような形の脈を感じたので、「第4腰椎と第5腰椎にトラブルがあったんだね。」と訊いたら、本当に驚いていました。その部分に分離すべり症を患ったつらい経験を話してくれましたが、何で分かるんですか？と質問攻めにあいました。
妊娠20週以降の患者様には、頼まれもしないのに胎児の性別を脈診で確認します。
カルテには胎児の性別は書きませんから、鍼治療する前に脈を診ながら「あ～男の子ですね」とボソッと言うだけですけど、「え？」って驚いた声をだしてギョッとした表情をされます。中にはあまりにもボソッと言うので治療の途中まで気が付かない方も居ますけど。そもそも脈で胎児の性別が分かるなんて知らない方がほとんどですから、当てられたらビックリするだけです。
中には胎児の性別を当てても、半分の50％の確率だから当てずっぽうに言っているだけ。と思う方もいますが、これまでの正答率は実は90％以上を軽く上回っていますから、明らかに脈診で判別しているのです。
子宝鍼灸コースというメニューがあるので、妊活されている患者様の着床の判定や、心音が確認できるようになったころの妊娠の判定は脈診で行います。病院に行く前に妊娠しているか、妊娠していないかを脈で確認できるのです。
専任教員をしていた頃の話ですが、恥ずかしそうに申し訳なさそうに、肝心のことは全く言わないで「大丈夫ですか？」と訊いてきた女子数人に妊娠検査薬のような扱いを受けたことがありました（苦笑）。
鍼灸師の中には（専門学校の教員にも）アンチ脈診の人がいます。彼らの意見をまとめると、脈診は検者の主観だけの独りよがり、再現性が乏しいし、絶対に一致しないから診察法としては下（げ）だからというわけです。
でも僕から言わせれば、脈診をマスターしていない人にしか習っていない不幸な方か、感覚の世界を体系的に教えられない人にしか習えていない可哀想な経験の持ち主としかみえません。どのような経緯からそのような考えに至ったかはわかりませんが、その人も最初は脈診に興味を持って習っていたはずですからとても残念に思っています。
脈が教えてくれることは何気なく伝わってくるものではありますが、色々なことがわかります。鍼灸師であるならば、脈診をトレーニングして、是非マスターして欲しいと思います。脈診に少しでも興味があるならば、是非一緒に勉強しましょう。名人級とまではいかないまでも、僕のレベルぐらいの脈診でしたら、すぐに身に着けられますから。
